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月桂冠総合研究所
研究内容
バイオの研究

大学と共同開発!安全簡単な脂肪酸分析キット

脂肪酸分析キット

近年ヒト、イネなど多くの生物のゲノムが解読され、このゲノム情報を用いて生命活動の仕組みを解析する「ポストゲノム解析」が精力的に行われるようになりました。遺伝子から転写されるmRNAを解析するトランスクリプトミクス、mRNAから翻訳されるタンパク質を解析するプロテオミクスなど「omics(オミックス)解析」と呼ばれる新しい解析方法が発展しています。このようなポストゲノム解析の中でも、メタボロミクスは細胞内の代謝物を網羅的に解析する手法であり、生物の代謝機構を直接観察できる手法として注目されています。ただ細胞の代謝物は多種多様で、その成分をすべて分析するためには対象成分に応じた多数の分析方法を確立する必要があります。
月桂冠総合研究所は、経済産業省・平成16~17年度地域新生コンソーシアム研究開発事業「ポストゲノム解析を簡便にする生体試料精密分画キットの開発」に参画。京都府立大学の市原謙一教授、ナカライテスク株式会社と共同研究を行い、生体試料分析の中でも脂肪酸の分析方法の開発に取り組み、「脂肪酸メチル化キット」を商品化することに成功しました。

研究テーマ ポストゲノム解析を簡便にする生体試料精密分画キットの開発

目的

通常、脂肪酸はガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定します。脂肪酸は不揮発性成分であるため、メチル化などの処理により揮発性成分にして測定する必要があります。従来のメチル化操作では、100℃での高温加熱処理が必要であったり、手順が煩雑で大量のサンプル処理が困難であるなどの欠点があったため、大量の試料を簡単で安全に測定できる方法が求められていました。

実験結果および考察

新しい脂肪酸メチル化キットの開発は、「誰でも」「どこでも」「安全に」「迅速に」をコンセプトとして始めました。温和な条件でメチル化を行うこと、抽出操作などを省略し測定手順を簡単にすることを目指し、図1のような新キット方法の開発に成功しました。これは、メチル化試薬の配合を種々検討することにより、乾燥だけの前処理と、37℃でメチル化反応を行うことを可能にしています。この新キットを用いて生体成分のメチル化を行った結果が図2です。従来法と新キットのメチル化率は、脂肪酸の鎖長に関わらずほぼ同一で、新キットでも従来法と比べて遜色ない測定ができることが示されました。

図1 従来法と新キット法の比較
図1 従来法と新キット法の比較
図2 酵母細胞サンプルでのメチル化率の比較
図2 酵母細胞サンプルでのメチル化率の比較

新キットを用いて10mgから100mgの酵母乾燥菌体に含まれる総脂肪酸を測定した結果(図3)、菌体量と脂肪酸量は比例関係を示し、不純物の多い試料でも正確に脂肪酸の測定ができることが分かりました。

図3 各試料量での定量性
図3 各試料量での定量性

酵母細胞内の脂肪酸測定

月桂冠では、香りや味の優れた清酒を生み出す酵母の育種を、長年にわたり続けています。新しい清酒を開発する場合、目的とする成分の量の変化を正確に知る必要があるため、分析技術が重要となってきます。特に清酒中の香気成分は、酵母がほとんどの生産を担うため、酵母細胞内の物質量を正確に測定することが優良酵母の育種につながります。
清酒成分の中でも、脂質は吟醸香の生成に関与しています。吟醸香のひとつ、リンゴのような香りのカプロン酸エチルは、酵母が作る脂肪酸の一種、カプロン酸から生成します。カプロン酸エチルの量は、酵母内で生産されるカプロン酸の量とほぼ比例関係にあるため、酵母内のカプロン酸を測定することは酵母の特徴を把握する上で重要なのです。 栄養培地で培養した酵母の細胞内カプロン酸を「脂肪酸メチル化キット」を用いて測定した結果を図4に示しています。

図4 酵母細胞内の脂肪酸組成
図4 酵母細胞内の脂肪酸組成

このように、吟醸香を多く作るセルレニン耐性酵母は、通常の清酒酵母よりもカプロン酸が多いことがはっきりとわかります。
参照: 清酒酵母の育種
このように、細胞内の脂肪酸を正確に測定することは、エステル生産性に特徴のある酵母の育種に役立てることができるのです。従来は、酵母細胞内の脂肪酸の違いを明確に把握するには大変な労力が必要でしたが、本キットを使うことで簡単かつ安全な測定が可能となりました。

このキットは,酵母だけでなく各種微生物や血液などの試料を測定することもできます。

この研究は、経済産業省 平成16~17年度地域新生コンソーシアム研究開発事業「ポストゲノム解析を簡便にする生体試料精密分画キットの開発」での成果です。
ASTEM : http://www.astem.or.jp/

  • 京都府立大学大学院 市原謙一教授との共同研究で特許権取得。
    特許第4942380号:「カルボン酸のアルキルエステル化方法及びキット」
  • 脂肪酸メチル化キットは、ナカライテスク株式会社(http://www.nacalai.co.jp)より販売されています。
  • 試薬の商品概要と商品の代理店はこちら

(掲載日:2007年6月15日)
(改訂日:2013年4月3日)

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